オールMicrosoftプロダクツという制約を取り払い、オープンソースを受け入れた新たなモデルを模索するレイ?オジーはいつの日か、尊敬の念を込めて「Azureの父」と呼ばれることになるのだろうか――本稿では、レイ?オジーの戦略を考察しながら、間もなく開催されるTech-Days 2010で注目すべき点について考える。
●レイ?オジーの意図はどこに
2009年11月にロサンゼルスで開催された、Microsoft Professional Developer Conference (PDC) 2009のキーノートを覚えているだろうか? このキーノートで、同社のCSA(Chief Software Architect:主席ソフトウェア設計者)であるレイ?オジーは、Windows Azureの立ち位置と今後の計画について、いつものように理路整然としたロジックを展開し、観衆の理解を得たかに見える。しかし、突如として切り出したオープンソースへの取り組みについては、すべての人々を驚かせたにしても、漠然とした期待を抱かせるに、その説明をとどめている。
以下のロゴをPDCキーノートのスクリーンに映し出し、それに続いてWordPressの創始者であるAutomatticのマット?マレンウェッグを登壇させ、WordPressをAzureにデプロイするデモまで見せた、レイ?オジーの意図はどこにあるのだろう。しかも、このWordPressのデモでは、ご丁寧なことに、MySQLとApacheが準備されているというメッセージまで表示されているのだ。
Microsoftにおけるオープンソースという、誰もが興味深く見守ってきたテーマについて、同社の幹部が何らかのメッセージを発信するのは、きわめて珍しいことである。11月上旬に来日して、Microsoft Developer Forumのキーノートスピーカーを務めたスティーブ?バルマーも、オープンソースについては一切ふれることはなかった。
その一方で、現場のエンジニアたちは、オープンソースとのインターオペラビリティを求めて突っ走っているかのように見える。まず、2009年の5月ごろにCodeplexでPHP SDK for Windows Azureが、Microsoftがコミットするインターオペラビリティの一環として、また、PHP開発者とWindows Azureをつなぐオープンソースプロジェクトとして発表されている。
続いて、PDC直前の10月下旬には、Azure TeamブログでWindows Azure Tools for Eclipseに関するアナウンスがあり、PDC直後の11月下旬には、Microsoftでアーキテクトとして活躍するサイモン?デイビスが、Ruby on RailsもWindows Azureでサポートする姿勢を自身のブログで示した。
ここで、PDCでのレイ?オジーのキーノートに話を戻すが、上記のロゴをスクリーンに写しても、また、WordPressのデモでTomCatが動いていることをにおわせても、それらのオープンソースソフトウェアがWindows Azure Platformの中で、どのような位置付けになるのかは説明していない。
ましてや、オープンソースリポジトリであるCodeplexも、それぞれのエンジニアたちのブログも、Microsoftのオフィシャルな判断や決定を伴うものではないのかもしれない。つまり、いくらWindows Azureの柔軟性をアピールしても、トーンダウンしてしまう可能性は否定できないわけだ。
●Microsoftの大転換
いまのMicrosoftには、3つの大きな論点がある。つまり、パッケージ主体の収益構造からの急激な転換は不可能という現実論と、その転換を急ぐべきだという別の現実論、そして、オープンソースを拒絶するパブリッククラウドは成り立たないという、苛烈な現実論である。
言うまでもなく、Microsoftの収益の柱はWindowsクライアントや、Office、Windows Server、SQL Serverといったパッケージであり、SaaS型の企業向けサービス「Microsoft Online Services」の第1弾として提供されたMicrosoft Business Productivity Online Suite(BPOS)などのオンラインサービスによる売り上げは、全体の1%にも満たないのではないかと思われる。
こうした業態を、サービス中心のビジネスへ本当に転換できるのだろうか? 何より、転換が必要なのだろうか? レドモンドの首脳陣たちは、こんな自問自答を毎日のように繰り返しているのだろう。しかし、マーケットは正直で冷淡だ。2009年末のロサンゼルス市の決定を思い出してもらいたい。同市では、3万4000人の市職員に提供するアプリケーションについて、14種類の候補を検討した結果、Google Appsを選択したという。幾つかの英語サイトでは、クリエイティブな作業に従事する職員にはMicrosoft Officeを与え、そのほかの大半の職員にはGoogle Appsを与えるというコメントが添えられていた。
もし、あなたがロサンゼルス市に住むMicrosoftの従業員だったとして、こうした行政の判断に異を唱えるだろうか? 恐らく、納税者の立場から喝さいを送るはずだ。そして、ITのコモディティ化は行政に限ったことではなく、民間企業でも同様の動きが始まっている。日本でも、パナソニックグループがMicrosoftのExchangeからLotusLiveに移行するという報道が、各メディアの紙面を賑わせたことを思い出してほしい。つまり、大規模な組織がすべての職員にPCを提供するとき、Windows 7やMicrosoft Officeの価格に見合うユーザーは少数派となってしまうのだ。
米国におけるWindows 7 Ultimateの価格は319.99ドルだが、例えばUbuntuを載せたDELLのInspiron Mini 10が299ドルで売られているという現実を、レドモンドの首脳陣は直視すべきだ。恐らく、ロサンゼルス市のような方針を持つ組織は、300ドルもしないPCを職員にばらまき、Googleにいくばくかの対価を支払うことで、その投資のほとんどを完結してしまう。改めて言うまでもなく、エンタープライズシステムの有益性を計る主な尺度は、その費用対効果である。だからこそ、より安価なITを求める市場はクラウドへと流れ、MicrosoftもAzureでそれに追随しているのだ。
●Tech-Days 2010のキーノートに注目
MicrosoftがWindows Azureを有していなかったとすれば、この企業に今後も魅力を感じるだろうか? こんなアンケートを実施したとすれば、恐らく大半がノーを表明すると思う。Windows Azureは、Microsoftの将来を担う柱として期待される存在だ。しかし、クラウドを推進する以上、オープンソースとのインターオペラビリティを取り入れないことには、自ら市場を制限してしまうことになる。これまでの、オールMicrosoftプロダクツという制約を取り払い、オープンソースを受け入れるべきというのが、レイ?オジーやAzureチームのメンバーの考えである。
来週、東京で開催されるTech-Days 2010。そのキーノートで注目されるのは、オープンソースとのインターオペラビリティに関するメッセージである。PDCと同じラインにとどまるのか、前進するのか、後退するのか。それにより、Windows AzureとMicrosoftの将来が占えるはずだ。
キーノートスピーカーはマイクロソフトの執行役であり、デベロッパー&プラットフォーム統括本部長の大場章弘氏。レドモンドからはデモンストレーターとしてWindows Azure担当テクニカルストラテジストのスティーブ?マークスが来日する。レイ?オジーがPDCで見せた、あのオープンソース陣営のロゴを見せて、この3カ月間における進ちょくを説明してほしいと願うのは、わたしだけではないだろう。
話はそれるが、コンテナデータセンターについて秀逸な論文を書いたジェームズ?ハミルトンが、つい最近自身のブログでプライベートクラウドのナンセンスさを一刀両断に切り捨てている(Private Clouds Are Not The Future)。今になって考えてみると、例えばプライベートクラウド構築キットといったような生半可なプロダクトを、Microsoftほど売りやすいベンダーはなかったはずだと思えてくる。しかし、それをせずに、クラウドの王道であるパブリックを、つまり、シェアードとしてのAzureを、ここまで育ててきたMicrosoftに拍手を送りたいと思う。ぜひ、クラウドの大輪を咲かせてほしいところだ。
そのためにも、レイ?オジーのメッセージを、つまりオープンソースとのインターオペラビリティの必然性を、日本のデベロッパーとユーザーにも伝えてほしい。それは、単に日本国内にとどまらず、空前の大転換を推進するレイ?オジーを後押しする声となり、レドモンドにもフィードバックされるはずだ。
あなたたちの素晴らしいチーフアーキテクトを強く支持してほしい――日本のマイクロソフトには、そう願うばかりである。部外者がとやかく言うべきではないと思うが、その企業のチーフアーキテクトが外に向けて発信している内容に、賛意を示すくらいは許されるだろう。
最後になるが、わたし自身はMicrosoftのファンであり、Windows 7も、その後にリリースされるOSも、ずっと使い続けていくことをお約束する。【鵜澤幹夫】
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